自動車保険見積もりの入門ガイド

安い慰謝料に怒る被害者に「社会通念上妥当です」は保険会社の常套句

家族も苦痛を味わい、落ち度のない被害者に慰謝料80万円は妥当か不当か?
山本さんは、事故の加害者側の自動車保険の会社が提示した示談金に、非常に不満であった。治療費は実費が病院に直接支払われるようになっていたし、休業損害は提出した証明資料のとおりであったので、特に異議を言うことはないのだが、我慢ならないのは慰謝料である。
広い道路の左側を歩いていて、後ろから来た車に衝突された。後で警察から聞いた話では、加害者はわき見していたために、左手の山本さんには気が付かなかったらしい。慌ててブレーキを踏んだのは、衝突してからのことであったと言う。数メートルも飛ばされて、山本さんは路面に倒れ込むと、そのまま意識を失ってしまった。加害者の過失は100%で、山本さんにはなんらの落ち度はない、ということである。

怪我は右大腿部骨折、腰部打撲、頭部外傷ということで、結局二ヶ月の入院と三ヶ月の通院加療で、その実日数は45日に及んだ。そして、やがて示談となったが、自動車保険の会社から見積もりをされた示談金の慰謝料が80万円であることに、山本さんはどうしても我慢ならなかったのである。
あの時、自分は道路の左側の白線で区別された路側帯を歩いていた。あれは、歩行者用路側帯だと、警察から聞いている。歩行の仕方に何らの問題はなかったはずだ。それに、今度の事故で、妻はパートを止めてまでして看護に当たってくれている。大学受験を控えた娘にも家事をさせて勉強の邪魔をしている。それに長期の欠勤で、事情が事情とは言うものの、会社の立場も悪くなっている。自分の怪我の苦痛もさることながら、こんな有様にはどう配慮してもらえるのか。慰謝料の相場などというのは知らないが、それにしても見積もりされた80万円というのは、あまりにも低過ぎないか。山本さんの憤懣は、考えれば考えるほど燃え上がって来るのである。

そのような山本さんの心情を無視するかのように、保険会社の担当者は示談交渉の席上で、
「少ないということはないと思っています。規定からみてもそう言えます」と答えた。
「規定?規定とは何ですか?」と思わず、山本さんは聞き返した。
「自動車保険の任意保険の算定基準です。どの保険会社も慰謝料を見積もりの上で基準としているものです」
「そんなのは、保険会社が都合のよいように、勝手に決めたものだ」
「いや、社会通念上妥当な基準です。この基準で算定しても、何ら社会的に見ても不当ではありません」とその担当者は、当然だ、という表情である。
山本さんは、社会の通念の根拠を具体的に説明するように求めたが、満足出来る回答はなかった。最後には、担当者は一枚の書類を取り出すと、それを見せながら、「こんなふうに、自動車保険の慰謝料に関してはきちんと規定があるのです。これは、国が定めた自賠責保険の基準を基礎にして、多少の修正を加えたものです。山本さんの80万円は、これに基づいて計算したものですから、決しておかしな数字じゃないのです」
「いや、そんなことを聞いているんじゃない。なぜこの金額が、世間一般の常識から見て、私の慰謝料としてふさわしいと言えるのか、ということを聞いてるんだ。こんどの事故で私自身は勿論だが、家内も娘も大きな迷惑を被っている。家庭としての損害は甚大だよ。それに、この事故の責任は、全部加害者にある。私には責任はないということだ。それなのに、慰謝料は基準どおりで、しかもそれは社会通念上妥当である・・・ということは、文句を付ける方が世間の常識から外れている、ということになる」
山本さんは、段々と怒りが収まらなくなって来るのであった。
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「社会通念」ではなく「保険会社の通念」でしょ

自動車保険には、「自動車対人賠償保険支払基準」というのがある。これを保険業界の統一的な基準として、監督官庁の認可を得て使用している。
こうすることによって、頻発する交通保険事故に迅速に公正に対処出来る、というのが保険業界の言い分である。言うまでもなく、この支払基準は、何ら法的な拘束力を持たないし、絶対的なものでもない。
保険会社からの示談金の提示に最後まで合意しなかった山本さんは、ある知り合いに紹介してもらった弁護士の話を聞いた。
「他の賠償金額はともかく、あなたの怪我や治療経過から見て、見積もりをした慰謝料が80万円というのは、安過ぎるようですな。いくら保険会社の基準でも、怪我から見たらこれの二割程度は増額して見積もりを行うべきでしょう。しかし、それでも今時の世間の相場からすれば低過ぎる。私どもには、《交通事故損害算定基準》というのがありましてねえ。これを私どもが関係する場合の請求の基準にしています。それによれば、あなたの場合は99万円から183万円の慰謝料ということになるんじゃないですか。それに、この基準も怪我が重く症状が深刻であれば、この上限に二割程度の加算が考慮されますよ」
「80万円が、世間の常識、社会通念上妥当な数字だ、と言われましたよ」
「社会の通念じゃなくて、保険会社の通念の間違いでしょ、ハッハッハ」
その弁護士は、そう言って笑った。
後日、再度の交渉に応じた山本さんは、自動車保険の担当者にこの話をした。
「それは、山本さんが、弁護士に依頼した場合の事でしょう? 保険会社である私とあなたとの話し合いでは、私どもの基準でやらしてもらいます」
「それじゃあ、社会の通念なんていうのは止してもらいたい。単に保険会社の通念ということだけじゃないか。私には私の判断がある。それは決して非常識だとは思わない。保険会社は、この金額が一番妥当なのであって、これを承知できないのは世間の常識に外れている、というような考えで、示談に臨まないで欲しい」
結局、最終的には、その担当者は山本さんの要求を入れて、慰謝料については二割の上積みを承知して九六万円とした。山本さんは、それでも不満であったが、これ以上求めても無理だろうという諦めもあって示談ということにした。
後で暫く日が経ってから、保険会社の提示する慰謝料にも、怪我の軽重や症状、治療の程度によって割増があり、最初の提示額はそのたたき台になっていることが多い。それが保険会社のやり方だと聞かされた。
「保険会社がいくら社会通念上妥当であるから、と言っても、被害者にはちっとも説得力はない。提示した金額がそうだ、というなら、先日の弁護士の言った金額だって、社会の通念ということになる。裁判所の判決だって同じというものだ。保険会社が自分の立場に立って作った基準を、この社会で認められた常識的な基準のように装って、それ以上の要求は非常識のように言うのはもっての他だ。単に保険会社だけの基準というのであれば、被害者は、そんな言葉は視して、現実に即した実際の損害に合っている、と判断する金額を要求しても不当ではないはずだ」
山本さんは、このように思うのであった。
「社会通念上妥当です」という言葉は、保険の常套句である。言われた方は、社会の通念とどうして言えるのか、妥当であると言う根拠は何か、わかることはない。保険会社は、この言葉を提示した保険金を納得させるために使う。そしてこの言葉の陰には、(だから、これ以上の要求は世間の常識に反することになる。しかし、どうしても納得出来ないと言うのなら、法的手段に訴えてもらっても一向に構わない)という刺を持っている。

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